法務ログ/Beyond happy paradise

法務ネタ・留学(LL.M/法務部員・弁護士)を中心に記載しています。本ブログは法的アドバイスを目的としたものではありません。https://twitter.com/Ishibayashi

2017年米国税制改革法(TCJA)と業務関連接待

アメリカでは2017年に 税制改革法(Tax Cuts and Jobs Act /TCJA)が成立しており、この法令によって2018年から多くの税の取扱いが変わってます。

 

これに関して日本でも注目されているのは法人税の引き下げ*1等です*2

 

これに対して日本では注目している方が特にいないようですが、アメリカの一部で議論を呼んでいるものとして、「ビジネスにおける接待としての食事代(business meal expense)」(日本でいうところの交際費の一部)の控除可能性(事業経費算入)があります。

 

2017年以前において、アメリカでは一般的にbusiness meal expenseの50%控除が可能でした*3

これは、アメリカの所得税法*4が、事業において有益な費用であっても「一般的にentertainment等と考えられている活動に関連して支出した費用」*5の控除を認めないという原則論*6を採用しつつ、納税者がかかる費用の「事業活動に対する直接関連性」を立証した場合は控除を認めるという例外*7*8を設けており、business meal expenseはこの直接関連性を基本的に満たすためでした。

 

しかしながら、TCJAによって上記の例外が削除されてしまいました*9。そうすると、条文を素直に読む限り、2018年以降においてはbusiness meal expenseの控除が認められないことになります*10

 

TCJAでの改正にそのような影響があるとはほとんどの人が考えていなかったため、現在、公認会計士を含む会計系の実務家に「これってどうなるの?」という混乱が生じています*11

 

実務上の混乱を避けるために最終的には何らかの方法で控除を認めるように図るのではないかと思います*12が、とりあえず現時点での法解釈としてbusiness meal expenseの控除は認められなさそうです*13

 

それほど多くの条文を見たわけではありませんが、アメリカの法令は日本の法令に比べて洗練度が低く、全体的に改正の仕方がやや雑な印象を受けますね。

*1:35%→21%

*2:詳細な解説としてはhttps://www.pwc.com/jp/ja/tax-articles/assets/hot-topics-20171225-jp.pdf

*3:I.R.C. § 162, 274(a)(1)(A), 同(k)及び同(n)

*4:I.R.C. § 274(a)(1)(A)

*5:接待として行った食事やゴルフの費用はこれに該当します。

*6:旧(A)前段

*7:旧(A)後段

*8:ただし、この場合の控除にもI.R.C. § 274(k)が贅沢なもの(lavish)に関する費用の控除禁止という制限を、I.R.C. § 274(n)が50%のみの控除許容という制限を、定めています。

*9:それほど深く調べたわけではありませんが、私が調べた限り「交際費の控除可能性を否定するために削除する」等の議論は立法過程でなされていません。

*10:「原則として控除不可」という帰結がそのまま採用されるため。

*11:例えば米国公認会計士協会(AICPA)は「2018年においても税法上は控除が認めらますよね?」というレター(https://www.aicpa.org/content/dam/aicpa/advocacy/tax/downloadabledocuments/20180402-aicpa-comments-sec274-meals-ent-transp-fringe.pdf)を2018年4月に財務省とIRSに送付しています。

*12:米国の実務には詳しくないので通達レベルで何とかなる話なのか立法レベルでなんとかしなければならないのかまでは分かりませんが...

*13:ちなみにAICPAは上記レターで「274(k)に該当しないのだから控除できるよね?」という主張をしていますが、274(k)は別条文で控除できる場合の控除制限(例外の例外)を定めるものなのでこれをもって控除を基礎づけることは困難と考えられます。