失われた家屋の補填は課税されないのに、失われた暗号通貨の補填は課税されるのは何故か
含み益のある持ち家を譲渡した場合、「譲渡額-購入価格」が所得を構成する。例えば、1億円で購入した家を3億円で譲渡すると、「3億-1億=2億円」が所得となる。
もっとも、この持ち家が放火で消失し3億円の補填*1を受けた場合、非課税となるのが現行法である(所得税法9条1項18号、所得税法施行令30条2号)。
ここまでは大抵の基本書で説明されていることである*2。
では、暗号通貨交換行者が、預かっていた暗号通貨を窃取され返還できなくなったため、預金者に対して時価(取得価額+含み益)を賠償として支払った場合はどうか。
持ち家の消失の場合の処理からすれば、暗号通貨の場合も含み益が非課税となるのが妥当なように考えられる。しかし、国税庁は、暗号通貨の場合、含み益の補填は雑所得として課税されるとしている*3。このような課税実務は許容されるのだろうか。
上記の国税庁の回答は根拠条文等の提示が不十分なため、これだけでは理解が難しいが、以下のような条文操作によるものと考えられ、結論としては妥当と考えられる。
まず、所得税法施行令30条2号は、非課税とする範囲について以下のような例外を設けている。
(これらのうち第94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを除く。)
そこで、所得税法施行令94条を見てみると、
不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が受ける次に掲げるもので、その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するものは、これらの所得に係る収入金額とする。
…
二 当該業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの
と定めている。
すなわち、「業務を行う居住者」がその業務の「補償」として支払を受ける場合は、非課税とならず課税対象となるのである。
上記の条文を読んだ方は、「いやいや、暗号通貨の預け入れは「業務」じゃないから、この条文には該当しないだろう」と思うかもしれない。
しかしながら、ここでいう「業務」とは非常に幅広い概念と考えられており、継続的な資産運用も「業務」に該当するとされている*4。
そのため、暗号通貨の預け入れも「業務」に該当し、所得税法施行令30条2号の非課税所得には含まれず、(取得価額の回収部分を超える)含み益について補填を受けるとその分は雑所得として課税されることになるのである。
なお、上記のように考えると、賠償を受ける預金者としては、暗号通貨交換業者と賠償について合意する際に「強制的に含み益が実現し課税されること(実現時期を選択できなかったこと)」を含めて賠償を求めるべきか検討するべきということになろう*5。